Lucro
Profile
Misato Takagi
2005年、千葉県生まれ。もともとはインテリアデザインに興味を持っていたが、対象がより人に近いプロダクトデザインを志す。Youth Portfolio 2025 優秀作品を受賞。
Product Concept
Lucro
「くつろぎの場所にちょっとした便利を」。在宅ワークの広がりにより多様化する暮らしの中の作業空間に向け、さまざまな環境に自然と溶け込むデザインを目指した。直線と曲線を織り交ぜたフォルムが空間にアクセントを与え、どの角度から見ても飽きのこない佇まいをつくり出す。
Details
Interview
空間よりも、
その中で使われるものを
もともとはインテリアデザイナーを志していた髙木さん。日本工学院専門学校の見学をきっかけに、プロダクトデザインへと進路を切り替えた。その変化は明確なターニングポイントがあったというよりも、むしろ感覚的な納得の積み重ねだったと振り返る。
「プロダクトの学科を見て、家具とか雑貨とか、自分が好きなものってもしかしたらこっちなのかもしれないと思いました」
削ぎ落とすことで見えてきたかたち
Youth Portfolioには授業の一環としてエントリーした。最初から明確な完成像があったわけではない。「いま、世の中に求められる家具のデザイン」というテーマに対して、どんな切り口で答えるかを探るところから思考は始まった。
「木と何かを組み合わせてみたいなって一番に浮かびました。迷ったのがアクリルとガラスで、ガラスは断面がちょっと青みがかってしまうから、全体の透明性を保つことができるアクリルを選んだ。
デザインしたのは、異素材を組み合わせた複雑な形状のサイドテーブル。ストレスなく使えるよう、ソファのアームに一部が食い込むように設計した。上段と下段に置くものは、組み合わせ次第で使う人のライフスタイルを表す。Lucro(ルクロ)という名前には、木と透明な素材の組み合わせを軽快な語感に込めている。
「はじめはソファでパソコン作業ができたらいいな、というところから始まっていて。デザインを考えるなかで、テーブルの高さがソファと同じになるのではなくて、肘掛けにちょっと食い込んで使えるようにしたかったんです。最初はいまよりも複雑なデザインで、やりたいことを全部詰め込んでしまいましたね(笑)」
書類選考の際、審査員から最終プレゼンに向けて複数のフィードバックを受けた。特に「削ぎ落としてシンプルに」「抜け感を意識してほしい」という指摘は、根本からデザインを見直すきっかけとなった。どこまで削れば成立して、何を残さなければ魅力が失われるのか。その判断は簡単ではなかった。
「削ぎ落としすぎてもつまらなくなるかもしれないし、でもこのままだと多すぎるし、どうしたらいいのか分からなくなりました。友達に意見を求めても、『迷走してる』と言われることもあって。それでも締切ギリギリまで考え続けてやっと、『これならいけるかも!』と思える形になりました。もともとシンプルなものが好きなので、そこに立ち返れた感じがあって。機能はそのままに、見た目をすっきりさせるバランスになったと思います」
つくる現場のリアリティ
デザインの段階で想定していた要素は、実物化のプロセスにおいて必ずしもそのまま実現されるわけではない。Lucroにおいても、素材や仕様は製作の過程のなかで変化していった。
「最初はアクリルを緑に着色する予定だったんですけど、アクリルの間に和紙を挟む方向になって。和紙は岐阜の美濃和紙とかも見に行って、一度は考えていたアイデアだったんです。でも、ヨレたりしないかなという不安があって落としていた案で。『和紙を使いましょう』と提案いただいて、すごくワクワクしました」
複雑なデザインに対して、わずかな揺らぎや自然な質感を加えることで、全体の印象に温かさとやわらかさを添えることが狙いだ。一方で、技術的・時間的制約もまた現実として立ち現れる。作品の展示に向けて、最終的にはアクリルが木材へと変更された。
デザイナーと同じく職人にとっても、新しいデザインを形にすることは挑戦の場でもある。図面上では成立している構造が、実物として成立しない場合もある。
「木を使わずに組み立てられる設計も、一度つくってみて金具を仕込まないと自立しないこともわかったんです」
そういった差分を受け入れて、代案を考えることで埋めていくプロセスこそが、ものづくりの現場における重要な領域だ。学生の時点でそれを経験できたこと、髙木さんは「すごく大きな学びの機会になりました」と振り返る。
つくることが、選択肢をひらく
新たな視点や可能性を引き出していき、展示用に完成したLucro。当初の構想をそのまま実現したものではないが、製造プロセスとの往復のなかで更新されたという意味では、デザイナーと職人の対話から生まれたひとつの完成形である。
「アクリルから木に変わったことで、金属とか大理石にも組み替えられることに気付けたのは発見でしたし、満足のいくものができたと思います。でも、やっぱりアクリルの最終版も見てみたいです。正直、悔しさはありますけど、実際につくってみて、はじめてわかることが多いんだなって。別注家具製作所の皆さんも悔しがっていたので」
家具製作のなかで印象に残っているエピソードとして、髙木さんが挙げるのが、プロジェクトを担当した別注家具製作所・沖野夏菜子さんの存在だ。デザイナーと職人のあいだに立ち、両者をつなぎながら導いていくその役割から影響を受けた。ものづくりに関わる立場そのものへの興味が広がっていく。
「沖野さんが職人さんと私をつないで進めてくださって。デザイナーにもなりたいけど、沖野さんのようにいろいろな人と関わりながら家具をつくっていく仕事もおもしろそうだなって。誰かと素材を選んだりする製作過程もすごく楽しいんです」
デザインすることと、それを実際にかたちにすること。髙木さんにとってはじめての家具製作は、自分の意志をどこまで貫き、どこで調整していくのかを知るための時間でもあった。そして、ひとつのプロダクトを通して、将来の選択肢も広がった。髙木さんがプロダクトとどんな関わり方を選ぶのか。「デザイナーにならなくてもいいんですか?」と聞くと、「どちらの道に進んでも、実のあるものになるはずなので」と真っ直ぐな眼差しで答えた。